向日 葵の……丘?
野球の話とかとかとかとか…色々です
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ガンナーネギ 3話 ドッチボールDEバトル! ぜんぺん
「ふぁ……」

 朝、まだ日が昇って間もない空気の中で、ネギは目を覚ました。
 腰に痛みが走る。椅子に座って眠っていればそうなるに決まっているのだが、明日菜に勉強を教えた流れで眠ってしまったのなら仕方がない事だ。
 眠っている頭をフル稼働させて、ネギは昨日合った事を思い出す。

「……あー……そうか。あの馬鹿どもに授業を教えてたんだったか」

 立ち上がってノビをすると、べきべきごきっ、と鈍い音が響き渡る。
 最近テレビを見ていたが、ネットカフェの椅子で寝ているネットカフェ難民なるものは背骨が曲がっているとか。

「……俺、早く家みつけないと骨が曲がっちまうな……」

 ネギは深く溜息を吐く。
 まだ朝も早いのだろう。肌を刺すような寒さがネギを包み込んでいる。
 密閉された空間と言えど寒いものは寒い。日本はいまだ冬である。ある程度はなれているネギだがやっぱりカッターシャツとスーツの二枚だけではそれなりに厳しいとネギは思った。
 もう三日ほどこの服しか着てないし、シャワーも浴びていない。思春期であるネギにとってこれは由々しき自体である。
 ニキビが出来るのはよくないし、そろそろ体臭とか出るかも知れない。ただでさえ歳の近い女性たちが何人も居るのだ。気を使うのも無理はないだろう。
 かと言ってホテルに行くお金もない。というか、ビジネスホテルが学園内部にある訳がない。

「……まあ、しゃあねーか……」

 一つ呟く言葉は、冷えた空気の中へと掻き消えていった。
 ネギはぼーっとした後、時計に目をやる。
 時刻は八時。
 こうしている場合ではない、そろそろ教師の出席が取られる頃である。
 幾ら警備員といっても半分副担任なネギが遅刻するわけにはいかないのだ。
 ネギが慌てて職員室に入り自分の席に座ると、源しずなが話しかけてきた。
 彼女、源しずなという先生は色々と特徴あるものの、一番の特徴といったらやはり豊満な胸だ。
 歩くたびにぽよんぽよん揺れるソレはもう異性の視線を釘付けである。
 と、そんな風にネギが鼻の下を伸ばしていると。

「ネギ先生!」

 聞きなれた声が職員室に飛び込んできた。
 なんだぁ? とネギが入り口の方を見る。
 入り口には息を荒げるまき絵と亜子が立っていた。
 おそらく運動していたのだろう。体操着のまま、額に汗を浮かべて扉に手をついて、ぜぇぜぇ息を吐き出している。

「あー……どうかしたか?」

 正直物凄い面倒くさいのだが、他の先生達の手前、面倒そうな顔をすることは出来ない。
 亜子とまき絵はすぅっと息を吸い込んで。

「校内暴力が起こったんです! 助けてください!」
「うるせー」
「うるせー!? 教師がそんな口調でいいの!?」

 まき絵が突っ込んで来るが、それを返すのも面倒だ。放っておくに限る。
 ……限るんだが、こう、耳元でぎゃーぎゃー騒がれると鬱陶しいことこの上ない。
 仕方ない、とネギは立ち上がる。
 これは人のためではない。全て自分の為だ。
 まき絵達に案内されるままに、ネギは走りだす。




「それ! 女子高生アターック!」
 
 ふざけたネーミングセンスの技名らしきものを発しながら、女子高生はボールを放つ。
 それは見事にコントロールされアキラに命中する。
 っ、と息をつまらせながら、アキラはそのまま転倒した。
 クラスメートが集まり、最も資格にいる裕奈がアキラを助け起こし、ボールの当たった場所をなでさする。
 
「だ、大丈夫!?」

 たんこぶこそ出来てはいないが、転倒した際にすりむいたようで、肘からは少量ながら血液が流れて出ている。
 痛いのだろう。アキラは口で大丈夫だと言うが、顔は痛みでゆがんでいた。

「ほらほら! もう一発!」

 そこに、容赦なく女子高生の放つボールが再び襲い掛かる。
 今度の狙いは裕奈だ。頭部を狙うよう放たれた弾丸のような勢いのボールは、裕奈によける暇すら与えてくれない。
 当たったら痛い。などという思考すら与えてくれぬまま、弾丸は裕奈へと突っ込む。
 反射的に目を瞑るが、それ以外のことは全く出来ない。両手はアキラを助け起こすことに使ってしまっているし、防御の動作を行うことも出来ない。

「……っれ……?」

 目を瞑って数秒たっても、ボールが自分に当たることはなかった。
 おかしい、と思って裕奈は目を開く。
 まぶしい日差しに目が眩む。

 その日差しの中に、自分の担任の先生が居た。

 片手でボールをつかみ、面倒そうに頭をかきながら、先生こと、ネギ・スプリングフィールドはぎろりと女子高生をにらむ。
 
「おい、此処は家の生徒が先に取っていた場所だろ? 横取りは卑怯じゃないか?」

 声に怒気を含ませながら、ネギが言う。
 その怒りは自分のまったりとした休み時間をつぶした事に対してなのだが、雰囲気的には自分の生徒が先に使ってた場所を横取りしようとしていることに怒っているように聞こえたりする。

「な、なんで先生が来るのよ!? 卑怯者はそっちでしょ!? 先生呼ぶなんて!」

 それはアレか、せんせーにちくんなよーとか言う中高生にあるおかしい守秘義務の強要か、そうなんだな等とネギは思いながら、思いっきり溜息を吐く。
 正直、ものすごく面倒くさい。
 自分の生徒達が此処が遊べなくても、こいつらは別の場所でたくましく別の遊びを見つけるだろうし放って置いても害は無い気がする。
 しかし、あのまき絵と亜子の様子を見ると引くつもりは無いんだろうな、とネギは思う。
 まあ、物は試しというし、とりあえずマジかどうか試してみよう。

「あ~……うるせぇな……一緒に使えば良いだろ?」
「「「「「良くない!」」」」

 亜子、アキラ、まき絵、裕奈、女子高生達が同時に叫ぶ。
 やっぱりだめだったー! とネギは頭を抱え込む。
 首を突っ込まなければ良かったとこれほど後悔したことはない。
 ネギはやれやれと溜息を吐く。

「もう! 退きなさいって言ってるでしょ!」

 女子高生と亜子達が取っ組み合いをはじめた。
 収集がつかなくなりそうだ、と判断したネギは、その場から退散するべく離れようとして。

 ベシーン! とものすごい音を響かせて、ボールが女子高生の顔面にクリティカルヒットした。

 なっ!? とその場に居た全員がボールの飛んできた方向を見つめる。
 その場に立っている少女は、ゆらりと髪の毛を揺らしながら、鋭い目つきで女子高生をにらみつける。
 というか、少女などという言葉を使う必要はないだろう。ネギの担当する生徒達の中で、上級生に平然とボールを投げつける生徒など、一人しか該当しないのだから。
 その少女――神楽坂明日菜は、近くにあったボールを拾いあげ、ぎゅーっと握りながら、女子高生の軍団相手にビッと勢いよく中指を立てた。
 英語での放送禁止用語の意味を含むそのアクションは、女子高生達の神経を逆撫でするのに最も適しているものだろう。

「こんのクソガキっ!」

 ぶんっ、と女子高生の一人が不意打ち気味にボールを投げる。
 そのボールは明日菜を狙った物だ。流石の明日菜といえどもいきなり飛んできたボールを避けたり止めたりすることは出来なかったのか、ボールは音を立てて明日菜の肌を打った。

「痛っ! 何すんのよっ!」

 明日菜が紅くなった部分を撫でながら、きっと女子高生を睨みつける。
 それを挑発と受け取った女子高生達は更に怒気に凄みを見せながら、ボールを構える。

「あんた達がいけないんでしょ!」

 明日菜が言う。確かにそれは事実かも知れないが、最早頭に血が上った彼女達に言葉は伝わらないだろう。
 ネギは既に止める事を諦め、屋上の出口の近くへと避難している。隙有らば逃げ出す気が満々だ。
 ストッパーを失った喧嘩は、止まるどころか更に規模を大きくして、てんやわんやの大騒ぎになっていく。

「何をやってるんだい?」

 其処に、渋い声が響き渡った。
 その声は間違いなく高畑のものである。
 ストッパーきたー!! と歓喜し、ネギは心の中で限りなく大きなガッツポーズをしながら。

「おお、タカミチ、これ、止めてくれ」

 と、親友にお願いをする。
 間違いなく引き受けてくれるであろうとタカをくくっていたネギであるが、彼の予想に反して、帰ってきた言葉は全く違うものだった。 

「……ネギ君、君が止めるんだ」

 高畑が真剣な顔で、ネギを見ながら言った。
 その言葉を受け止めさせられて、暫し考え込んだ後、ネギはへ? という素っ頓狂な声を上げる。
 彼の言葉の意味をようやく理解したネギは、ぶんぶんと頭を横に振って無理やりに頭を回転させつつ、その言葉の真意を高畑に問う。

「な……なんでだよ? 何で俺が?」
「君はこの生徒達の『先生』だろう? なら、君が止めるべきだ」

 間髪いれずに、そんな答えが返ってきた。
 先生、と言われても、確か自分は警備員として雇われていたはずである。

「でも……こいつ等の担任はタカミチじゃないか……それならタカミチの方が……」

 ネギの言葉に、高畑は首を小さく横に振った。
 その行動の意味が分からなくて、ネギは一瞬思考を止めて考える。
 もしや、とネギが嫌な答えの一つを考え付いたと同時に、高畑からそれを肯定するような台詞が飛んできた。

「もう、僕は彼女らの担任じゃないよ、今日……いや、厳密には明日からだけど、僕は副担任で、君が2-Aの担任だからね」
「………………」

 ネギは信じられないと言う顔をしたまま、硬直する。
 ありえない。
 思わず思考を放棄してしまうほど、ありえない。
 何故自分がそんな面倒な……いや、教鞭を降らなければならない立場に就任することになっているのか。

(あ、風精霊が俺の周りを飛んでる~。可愛いなぁ、風精霊はどれだろー)

 思わず意識を見えもしない物に向って飛ばしてしまうが、そんな事をしても意味が無い。
 現世に戻る。
 このまま黙っていたら、高畑の言ったことを無言で肯定してしまうことになるかもしれない。それだけは避けたい、それだけは絶対に嫌だ。

「な、何で? 俺は……」

 言葉で抵抗しようとするが、高畑はくい、と親指でMAJIで取っ組み合いを始める五秒前☆ といった様子の少女達を指す。
 その動きにつられて、彼女たちの方をネギはむいた。

「早く止めないと、皆、怪我しちゃうよ」

 高畑の台詞は、暗に自分は動かない、といっているようなものだ。
 かといって、彼女たちがケガをしてもいい、といった意味で言っているせりふではない。
 彼は、ネギが必ず助けに行くと信じているのだ。
 信頼しきったその瞳で見られて断るほど、ネギは冷たい人間ではない。

「わ、分かったよ…………」

 止めることを肯定してしまって、ネギは渋々んがら喧嘩を止めるべく女子達の間に入っていく。
 かと言って止める台詞は思い浮かばない。よって、思いついた台詞をそのまま言ってしまった方が良いような気がする。 

「お前ら、喧嘩は止めろ!」

 ネギの大声に、明日菜達と女子高生達は一歩ずつ後ろに下がる。

「でも、此処は私達が先に……」

 勿論引く気はないぞ、というように明日菜がずいっとネギに近づいて言った。
 確かにこいつらのいう事は正論だが、女子高生達もそんな理由で引くことは無いだろう。そもそもこんな理由で引くくらいなら最初から奪おうとはしないはずだ。

「場所をどっちが使うか、ドッジボールなり、バスケットボールなりで決めれば良いだろーがっ!」

 とりあえず喧嘩が止まれば良いや、といった楽観的な思考でネギが叫ぶ。
 すると、予想以上に頭への血液の流れが物凄い良くなっていたらしい少女達にはそれが名案に聞こえたらしく。

「……そうしましょう! これから、此処の場所をどっちが使うか! ドッチボール一本勝負よ!」
「良いじゃない! 受けて立ちますわ!」
「勝負!」

 という具合に、とんとん拍子に勝負することが決まっていた。
 お、ラッキー、なんか喧嘩が止まったぜ、流石俺深く考えなくても名案をいっちまうもんだなと自分の思考を滅茶苦茶褒め称える。
 少しして、試合の準備が完了し、火蓋が切って落とされた。
 




「麻帆良学園本校女子中等学校2-A、VS、麻帆良学園ウルスラ女子高等学校2-Dのドッチボール対決! さあ、どっちが勝つのでしょうか!?」

 朝倉和美――2-Aの一人であり、パパラッチ娘というあだ名が定着している、赤っぽい結構巨乳の女性――の実況が辺りに響く。
 空高く、この屋上で始まるドッチボール大会にはなんと食券がかけられている。
 まずいんじゃね? というネギの台詞に対しての朝倉の答えは『テストの時も同じやり取りが堂々とされてるから大丈夫でしょ』というそっけない答えだった。
 この学校、考えれば考えるほど変だぜ、と考えるネギの耳に、審判の声が届く。

「試合……開始!」
「先手必勝! まずは生意気なお前からよ! 喰らえ!」

 試合開始とほぼ同時、待ってましたとばかりに高等学校の女子がボールを明日菜へと勢いよく投げる。
 ギュオッ! という風斬り音が耳にまで届きそうな程の回転が掛けられたボールだが、明日菜はそのボールを楽々キャッチしてしまった。

「ええっ!?」
「お返しよ!」

 予想外の捕球に驚きの声をもらす女子高生へ、明日菜が思い切りボールを投げる。
 ズドーン! とまるでプロ野球選手の投げる球のような勢いでボールが一人の高校生に当たり重々しい音を周囲に響かせた。

「こえぇ……」

 ネギは思わず身震いしてしまった。
 球威だけではない快速球。男子野球部にすら通用してしまいそうな速球をドッチボール用のボールで投げれてしまうこの女は間違いなく化け物である。
 こんな奴に嫌われてるのか俺はー! と恐怖に慄くネギを無視するように、試合は進んでいく。

「ナイスですわ、明日菜さん、この喧嘩、絶対勝ちますわよ!」

 委員長、と呼ばれていた雪広あやかが、いつもはいがみ合ってる筈の明日菜を称えた。
 ぐ、と親指を立ててそれに答えつつ。

「勿論よ!」

 と喧嘩であることを肯定した。

「喧嘩じゃないって……」

 物凄く小さな声のツッコミは届く筈もない。
 どうやら彼女たちにとって、このドッチボール対決は喧嘩に設定されているようなので、まあ良いかとネギはそれの訂正をハナから放棄した。

「この喧嘩、絶対勝つ!」

 ビシィッ、と格好よく女子高生達を指差して宣言する明日菜はなんだかとても勇ましい。
 これがもしもドッチボールなんていう幼稚かつ微妙な種目じゃなかったら惚れる生徒が少しはいたかもしれないのに、とネギは思う。

「ふん、ガキがお姉さんに勝つのはまだ早いのよッ!」

 ボールを思い切りリーダー格と思われる女が投げた。
 これまた強烈な回転がかかったボールである。恐らく明日菜以外には捕球できる奴は居ないだろうなーと心の中で思うネギの思考は正しかったようだ
 ドコン、ボコン、バコン、と小気味良い音が響く。
 ボールがハルナ、那波、風香に当たった音だ。
 トリプルアウトなんて初めて見るが、アレだけの回転がかかったボールならば、ありえないって事はないだろう。

「ごめんね~」
「あたた~」
「いてて……」

 三者三様の反応を見せながら、内野から外野へと移動していく三少女を見て、明日菜は頭に手を添えて思いっきり溜息を吐く。
 補足し忘れていたが、ハンデとして明日菜達の方は人数が多い。流石に中学生と女子高生との間には大きく戦力差が有るからこの措置は納得なのだ。
 と思っていたのだが、良く考えればドッチボールという種目は確か数が多少多くても関係なかった気がする的が多くなるだけでアウトに出来る確立が大きくなるだろうし。

「別に多くても有利じゃねーぞ! 的が多くなってるだけだって!」

 ネギの叫び声に、それもそうか、と明日菜が掌を拳で叩く。
 となれば、逃げるより受け止めた方がアウトになる確立は低い。受け止め損なっても、アウトになるのは自分だけになるだろう。

「皆! 逃げずにボールを捕るのよ! そのほーが被害が少ないわ!」

 明日菜の声に、皆が頷く。
 これで少しでも心的に楽になれればと思ったが、どうもそう簡単にはいかないようだ。
 
「分かった所で私たちの球は捕れないわよ! 次はそこの髪の長い奴っ!」

 ぐあっ、と女子高生が振りかぶる。
 テイクバックと体の向きから想像するに、狙いはのどかのようだ。

「危ない本屋ちゃん!」

 ボールが投げられる前にそれを判断して、明日菜がのどかへ向かって全力で疾走する。  
 その甲斐有ってか、のどかへ向かって勢い良く飛んできたボールをのどかから守る事に明日菜は成功する。
 だが、走った状態で受け取れる程勢いの無い球、という訳ではない。
 結果的に体で庇っただけで、キャッチすることは出来ずにボールは女子高生の方へと戻っていく。

「よし、もういっちょ!」

 跳ね返ったボールを捕球し、女子高生が再びボールを投げつける。
 今度はのどか狙いではない。ボールにあたったばかりで体勢の悪い明日菜を完全に狙ったものだ。

「く……な、なんて早い球を……っ」

 バシ、と乾いた音と共に、ボールが女子高生の手元に戻った。
 アウト、と明日菜が宣告されたと同時に、女子高生達はニィと笑って、ばさりと制服を脱ぎ捨てた。
 服の下にはブルマーと共に着込まれた、黒のバラをあしらった刺繍のある体操服。

「私達の正体はドッジボール関東大会を優勝した、『黒百合』! アンタたちに最初から勝ち目は無いわ!」

 屋上中が沈黙に包まれる。
 ドッチボールの関東大会。そんなものあるんだー的な空気をかもし出す明日菜達にお構いなし、といった感じで、女子高生達は鼻高々である。
 日本って何か無駄にすげぇ、とある種の感動を覚えつつ、ネギはふと、屋上の時計へと目を向ける。
 ……一時十五分。

「フ……あんた達に勝ち目は無いのよ!」
「……んなこと如何でも良いから……さっさと片付けないか? 無駄な喧嘩の所為で休憩時間、終わっちまったぜ」

 ネギは欠伸をしつつ、屋上の時計へと指を刺す。
 つられて、生徒達全員が其方へと視線を移した。
 それとほぼ同時。
 キーンコーンカーンコーン、と無情にチャイムが鳴り響いた。

「あ……次の授業に遅刻しちゃう!」

 何歳になっても怒られるのは嫌なものらしく、まるで蜂の子を散らしたように慌てて散っていく生徒達。
 その中で一人だけ、残っていた明日菜は鬼の形相でネギの胸倉を掴む。

「ちょっと! ネギ! アンタ何でドッジボールの試合を邪魔するのよ!」
「何でって、授業があるだろーがっ」

 授業なんてどうでもいいのよ! アンタが何とかごまかしなさいよ! と無茶を言う明日菜を、ネギは何コイツー、という目で見る。
 どうやらこれだけの理由では納得しないらしい。ならばもう一つ思ったことを突きつけてやろう。

「お前がアウトになったとたん皆もう駄目だって顔しただろ」
「え?」
「もう勝てないって思いながらやっても勝つ確率は0だからな、一度勝負を無効にしてもう一度戦う方が勝ち目があると思わないか?」

 ネギの台詞に、明日菜は思わず黙り込む。
 まさかこいつが其処まで考えて居たなんて、と彼女はショックを受けたのだ。

「お前は先に教室行っててくれ、俺は教科書を取りに、一度職員室に行くから」

 そういって、ネギは屋上の階段を勢い良く下る。
 英語の授業は自分の教科である。次が英語でよかったと明日菜が嬉しく思うのは後数分後のことだろう。

「全く……あいつ等は何であんなに元気なんだ……」

 ブツブツ言いながら、ネギは廊下を疾走する。
 と、次の瞬間。

 パァン! という豪快な音。

 窓が割れた音である。

「――はぁ!?」

 窓の方を見て、ネギは体を翻すようにして窓から離れる。
 硝子の破片が飛び散った。避けなければ体に刺さるかもしれない。
 それだけを判断し距離を取ったネギの行動は、ファインプレーと呼ばれるものだ。といっても魔法使いならばこれ位のことは簡単であるが。
 床へと視線を落とす。
 其処には、明らかに弾丸が埋まっていると思われる風穴が一つ開いていた。
 ネギは割れた窓へ視線を移動させ、僅かに考えた後、外へ飛び出す。

「何処に居やがる……」

 あの狙撃が自分を狙ったものならば、自分がそっちに向かえば恐らく姿を現すはずだ。
 この狙撃の腕と、昨日の事、この二つを総合して、狙った犯人は一人しかいない。

「……はぁ」

 ネギは思い切り溜息を吐いて、腰に手をやる。
 スーツで隠れてはいるが、腰には銃のホルダーが用意されているのだ。
 其処に携えてある魔法銃を、抜いた。

「OK、戦闘準備完了、隠れても無駄だぜ? 狙いは何だ? ――出席番号十八番、龍宮真名」

 校舎の影を睨みながら、言う。
 ネギの言葉に反応して、校舎の裏から影が一つ、姿を現す。

「流石だな、ネギ先生。……私の期待通りじゃないか」

 校舎の影から出てきた龍宮を睨みつけつつ、ネギは銃を握り締める。
 その様子を愉しむように見た後、龍宮は銃を両手で構える。
 
「……お前、学校の窓を割ってまで、俺になんの用だ」
「私は、お前に期待したんだよ。あの宮崎を助けた時の瞬動、見事だった。だから……ちゃんとした力量を貯めさせて貰いたい!」
「嫌だ、つったら?」
「拒否権は無いさ、男の子なら――売られた喧嘩は買うべきだぞ」

 ガオン! と龍宮の銃が吼える。
 ライフルから放たれた実弾がネギの足元に突き刺さった。
 息を詰まらせながら、ネギは魔法銃を仕舞い、瞬動で龍宮へと接近する。
 正直言って、銃では勝ち目が無い。
 あの跳弾を狙って攻撃してくる上手さ、間違いなくこいつは強いのだ。
 ならば、苦手だと思われる距離に入って攻撃すれば良い。
 ネギはぎゅ、と己の拳を岩のように握り締め。

「……ふ、もう良い。ネギ先生。……君は十分楽しみな素材だという事が、今のやりとりで十分に分かるよ。……体術がよくなったと判断したら……また、戦いを挑む」

 龍宮はくるりと後ろを向き、校舎へと歩き出す。
 それが、バカにされたような気がして。
 ネギはぎりり、と歯を食い縛る。
 この悔しさを味わったのは、何時以来だろう。

「……フェイト・アーウェルンクス……」

 再びチャイムが鳴り響く。今度は授業の始まりを知らせるチャイムだ。
 律儀にそのチャイムを最後まで聞いた後、ネギはハッと思い出したように表情をこわばらせ。
 
「授業忘れてた――!!」

 がちゃがちゃと慌てて銃をしまい、校舎の中へ慌てて戻る。今なら急いで教材を持っていけば五分くらいの遅刻で間に合うはずだ。
 問題を起こしたら新田が切れる! と鬼教師の顔を思い浮かべつつ、ネギは職員室へと疾走する。
 
 ――そうして、赤髪の少年が去った後に残ったのは、森の中から一部始終を見ていた金髪の美少女だ。
 幼女といっても通じる小柄な体躯ながら、雰囲気は幼女のソレではない。色気の漂う、という言い方は変だが、やけに大人びて見える。

「……一昨日の魔力はアレか。出涸らしかと思ったが、そうでもなかったようだ」

 にやりと邪悪に笑む顔は、不気味だが、何処か美しい。
 悪。そういった印象を与えてくるその表情には、活き活きとした何かがある。

「奴の血があれば……この忌々しいモノともおさらばだ。よし、そうとなれば……」

 少女は森の中に姿を消していく。
 後に来る、戦いの日に備えて。




「女子高生との問題は終わってねぇし、授業を忘れて学園長に大目玉喰らうし、龍宮には何時かお前と戦う宣言されるし、この頃良いこと無いなぁ……」

 授業後、ぐったりとした様子でネギは職員室の机に突っ伏する。
 学園長に殴られた(その後やり返した)時に出来たタンコブをさすりつつ、はぁ、と溜息を吐く。
 もう昼のときの問題と、龍宮事件と、全力疾走と、その他色々で今日の体力は使い果たした。
 出来ればもう問題よ起きないでくれ、女子高生のアレは明日に延期してくれ、出来れば消え去ってくれとネギは願う。
 だが、やはりそう世の中は甘く出来ていないわけで。

「先生~! 女子高生が~!」
「マタデスカ」

 反射的にカタコトになってしまうネギを更に無視して、ドアを勢い良く開けたまき絵はがっし、とネギの服を掴んで、引っ張っていく」
 問題はもう嫌だー! とどこかのカメラマンのように大きな声を出して、ネギは職員室から強制退室していった。
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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

ガンナーネギ 2話 褐色の巫女さんは死の香り(硝煙)
 清き青さは消え失せて、宵闇が空を覆っている。
 空にちりばめられた星達は月を中心にして、光り輝いていた。
 そんな夜空の下を、ネギはゆっくりと歩む。
 ネギの歓迎会は夜の八時まで行われた。
 質問攻めの後、流行の曲を何処からか持ってきたマイクで片っ端から歌い、食って飲んで新田という学年主任の先生に放り出されるまで、ノリノリでそれに参加していたのだ。
 高畑は途中で帰ってしまった為、男一人と女三一人のハーレム状態と若さ故の暴走+体力の解き放ちという犠牲を伴い、楽しんだのだが、その結果――くたくたのボロボロとなり、考え付いてみれば泊まる場所の確保も忘れたという最悪の状態である。

「……今夜、どないしょ」
 
 ネギは絶望に染まった台詞を零しつつ、ふらふらと歩く。
 当てなど麻帆良学園に来たばっかりであるはずもなく、唯二の頼りである学園長も学園長室に行っても居ない上、高畑の場所は何処にあるか分からない。
 八方塞だ。打開策が見つからない限り待っているのは野宿。
 目から流れる暖かい液体は涙じゃなく汗だ。そうに違いないとネギは自分に言い聞かせて、その辺をふらふらと彷徨い歩く。







 麻帆良学園内を歩き回る内に巨大な樹木が目に入った。此処なら雨くらいなら防げそうである。
 近くにはウォータークーラーも有るし、ベンチまである。野宿にはおあつらえ向きだ。
 神様は俺を見捨てていなかった! と喜びながらウォータークーラーの元へ走るネギだが、野宿には変わりない。人間、ポジティブシンキングが大切なのだ。
 ウォータークーラーのスイッチを足で踏み、飛び出す水を嚥下していく。冷たい水が喉を通る感覚は心地よい。
 ネギはぐびぐびと喉の渇きを潤していく。
 ついでに顔でも洗うかー、と手に水を溜め、溜まった水を顔へ掛けた、まさにその瞬間。
 ネギの頬を何かが掠った後、乾いた銃声が、響き渡る。
 
「な……!?」

 目元を服の裾で拭ってあたりを見回すと、もう一発弾丸が空を裂いて、ネギに襲い掛かってきた。
 っ、と息をつまらせ、転がるように避けるが、弾丸は連続してネギへと突っ込んでくる。

「うおおお!?」

 走りながら弾丸の飛んできた方を凝視すると、其処にはライフルを構える――。

「出席番号十八番の龍宮真名!?」

 先ほどまで一緒に食っちゃ飲みしてた奴に襲われる理由は無いのだが、もしかして何か怒らせるような事をしてしまったのかも知れない。
 でも狙撃ってなんだよ!? と涙目になりつつ、ネギは巨大な木の陰に隠れた。
 狙撃方向から見て此処に居れば弾丸は当たらない筈だった。少なくとも、ネギはそう思っていた。
 しかし。

 がぎっ、という金属音が目の前から響き響いたと同時に、ネギの横三十センチの所へと弾丸が突き刺さる。

「っ……!? ち、跳弾……なんつー、技術だ……」

 ネギがそうつぶやいている間にも先ほどより十センチ近くを弾丸が貫く。
 ネギはそれを確認するなり、木の幹から飛び出した。
 此処までの技術を持った奴から逃げ切れれる筈もない。逃げてもジリ貧になって追い込まれるだけだ。ならば自分から向かった方がてっとり早いし、逃げるのが彼の性に合ってないのだ。
 どうせ逃げれないのなら、戦ったほうが生き残る可能性は残っているだろう。
 ネギは相手が生徒で生き残る、とかいうのは如何かと思うが、そんな事は如何でもいい、事実は彼女が自分を殺そうとしているという事だけだ。
 自分の腰に手をやる。其処には自分の命を守る剣――否、魔法銃が刺さったが出番を待っている。
 魔法がこめられた弾丸を銃に入れて引き金を引くと、弾丸に込められた魔法が銃口から発射される――というのがネギの持つ魔法銃の性能だ。
 魔法弾は値が張るが、詠唱無しで撃てる為便利である。
 だが、無詠唱のような高速攻撃は出来ないというデメリットもある上、魔力の消費量は普通の魔法より上だ。だから魔法使いの中にネギと同じような魔法銃を使うものなど一握りしか存在しない。
 けれど、彼は攻撃魔法が使えない。
 これ以外に頼る物など、無い。
 魔法銃をネギは握り、ホルダーから外した。
 覚悟を決めなければならない、相手は本気なのだから。
 自分に言い聞かせながらネギは弾丸を銃に入れて、先ほどまで龍宮が居た方へと銃口を向ける。
 しかし、そこに龍宮は既に居なかった。

「っ」

 ネギが息を詰まらせる。
 
 ヒュっと風を切る音と共に一つの影がネギの懐に侵入してきた。

「しま……っ!」

 ネギはとっさに腕をクロスさせガードする。
 だが、そのガードをかいくぐるように。
 龍宮の拳がネギの鳩尾を貫いた。
 肺の中の酸素を全て吐き出して、ネギが吹っ飛ぶ。
 ネギは腹部に走る激痛を耐えつつ龍宮に銃口を向けて、引き金を、引いた。

 轟! と銃口から雷が吐き出される。

 その雷は一直線に龍宮へと伸びて。
 龍宮の直ぐ真横をえぐり、砂煙を巻き起こす。

「っ」

 直撃はしなかったものの、風圧と砂が龍宮に襲い掛かった。
 ちっ、と龍宮は舌打ちをして、砂煙が収まるのを待つ。
 砂煙が晴れる頃。
 其処に、ネギの姿は無かった。

「……逃がしたか」

 心底残念そうに呟く龍宮の顔には、笑みが浮かんでいた。

 その頃のネギといえば、雷の豪弾の余りの衝撃で麻帆良の空を飛行していた。決して浪漫は無い。
 自分の立場を考えて、ネギは溜息を吐いた。
 ひゅるるーという擬音を思い浮かべるスピードで、ネギは鳥のように空を吹っ飛んでいく。
 何処に行くんだろうー俺このまま死ぬかもー等と鬱りながらネギが涙を零したところで、ガスッと避雷針に直撃した。
 予想より早く走る衝撃に構えていなかったネギは、その余りの衝撃に意識を強制的に手放してしまう。
 疲れていたネギは気絶もそこそこに、寝息を立て始める。
 気絶と就寝をワンセットでご注文したネギは、まだ寒い初春のとあるマンションの屋上で野宿する事になった。




 寒風がネギの体を打つ。
 寒っ!? と思わずネギは起き上がった。
 それもそうだ。今は二月の上旬。まだ冬といってもおかしくない気候である。
 空にはまだ太陽が昇りきっておらず、遠くの方に朝日が浮かんでいるのだからまだ早朝で間違いないだろう。
 ひんやりと肌を刺すような冷気の中を、ネギは屋上から降りて、ゆっくりと歩き出した。
 で。
 此処は何処だろう。
 ネギはぽりぽりと頭を掻いて辺りを見回すが、勿論昨日来たばかりであるネギにここらへんの地理が有る筈も無く。

「あれ? 何でアンタが此処にいんのよ?」

 だから、その女神のようなツインテールを発見した時は涙が溢れそうになった訳で。
 どうやら新聞配達をしているらしいツインテールこと神楽坂 明日菜は、首にマフラーを巻いて手袋をし、完璧に防寒をして、肩から新聞紙が入った鞄をぶらさげている。
 そんな明日菜はじとっとした目でネギを見る。
 ネギの格好はといえば、昨日と同じだが、砂と埃で汚れたしわしわのスーツに身を包み、顔も泥だらけだ。

「……ホームレス?」
「ちがわい!! その、ほら、なんだ、アレだ。泊まる場所を用意してなかったっていうか。家が無いというか」
「合ってるじゃないの」

 誘導尋問だ!? とネギが叫ぶ。
 別にそんな事は無いのだが、まだ日本に来て間もないネギにそれが間違っているという自覚はないのだ。
 其処に突っ込める程明日菜の頭も良くないのでネギの間違った知識は不動の物になってしまう。
 と、如何でも良い話をしていたネギは思い出したようにはっとして。

「えっと、学校まで案内してくんない? 此処がどこか分からんのだけど」
「嫌よ」

 明日菜は明らかに嫌そうな顔をして、言う。
 まだ仕事が残っているであろう彼女にこんなことをお願いするのは如何かと思うが、人を気にしている場合ではないのだ。
 授業が始まる前までに学園長に話をするため、学園長室まで出向き、自分の部屋を用意して貰わないと、二日連続で野宿するなんてネギには耐えられないからだ。
 だからネギは明日菜に案内を頼んだのだが、明日菜にだって新聞紙を入れるという仕事が有る訳で。
 校舎へと案内して欲しいネギは自分の言い分を百パーセント主体で喋るが、勿論明日菜にそんな一方的な要望は通るはずが無い。
 こうして二人は無益な言い争いを住宅街の中で展開していく。



 結局明日菜に案内されて学校に着いたのは七時だった。
 明日菜は新聞を配るのが遅れたと言ってネギに不満タラタラだったが、そんな明日菜の言葉などネギの耳に届くはずも無い。地球は自分を中心に廻ってると思っている自己中心的なネギにそんな正論は通用しないのだ。
 到着するなり学園長室に走ったネギだったが、学園長はまだ学校に着ておらず、会う事は出来なかった。
 がっかりしつつネギは2-Aで日中をぼーっと過ごし、時は過ぎていって。
 授業後。
 沈み始めた太陽をぼーっと職員室から眺めつつ、ネギはお茶を口に含んだ。
 暖かい御茶が喉を通っていく。
 そういや何も食ってねーなーと己の金欠を呪い、ふらふらと窓際から離れ、高畑へと歩み寄る。
 せんべいか何かを持ってないだろうかと淡い望みを抱いて、高畑に話しかけようとした。

「はぁ……」

 が、突如高畑が深く深く溜息を吐いた。
 普段の頼り甲斐の有る態度はどこかへ行ってしまったようで、なにやら唸りながら机に向かっている。
 ネギはそんな高畑を見て首をかしげながら。

「お? タカミチどうしたん? ため息なんて珍しいな」

 物凄く重たい雰囲気を背に黄昏ている高畑を不思議に思いつつ、ネギが茶化すように高畑に喋りかける。
 高畑がネギの方を振り向く。
 その表情は何か絶望を打開する策が見つかった将軍のようである。

「……ネギ君、ちょっと頼みたい事があるんだけど」

 凄く嫌な予感がする。
 ネギはだらだらと汗をかきながら丁重にお断りしようとするが、高畑の手がネギの手をがっしりと掴んで逃がしてはくれなかった。




 六コマの授業を終えてから、2-Aでは居残り授業が催される。
 それはテストが近いからで有り、高畑が定期的に行っている小テストで決められた点数を下回っている生徒にのみ当てはまる物だ。つまり小テストで全員が赤点を取らなかったのなら居残り授業自体、行われない訳なのだが行われていると言う事はつまり、赤点を取った生徒が居たという事だ。
 で。
 2-Aの教室には五人の女生徒が残っている。
 それぞれ離れた席に座っている少女達は高畑の登場を待つ。
 居残り授業と言っても、内容を少し変えた程度のテストをやって合格点以上の点数を取ればすぐさま帰れると言う簡易な物で、居残り授業というより居残りテストと言った方が正しいだろう。
 そんな訳で自分達の担任の先生を待っている少女達。
 だが、其処に現れたのは誰もが来るとは思っていなかった、赤髪の少年だった。
 教室で待っていた五人は唖然とした表情で、暫しネギを見つめて。

「な、なんでアンタが此処に来るのよ!? 本当なら高畑先生とっ……」

 ガターンと椅子から立ち上がる明日菜。それはそうだろう。先日の授業の様子を見ていても彼女が高畑に特別な感情を抱いている事は間違い無く、高畑で一〇〇%決まっていた筈の授業後の特別授業の教師が、行き成り先日来たばかりの新人になっていたら誰だって不満を言いたくもなる。
 が、ネギはそんな事はお構いなしという感じで明日菜をびしっと指差して。
 
「はい、神楽坂明日菜、何か意見があるのか?」
「だって! 高畑先生が……」
「神楽坂明日菜……ほほ~う……英語の点数が」

 明日菜が何か口答えしようとした。
 だが、ネギが前回の英語のテストの点数をバラそうとした事で、明日菜は黙ってしまう。

「さて、今からテストを配る、とりあえずやれ、十点満点中八点以上を取るまで帰らせん。分かったか」

 はぁい、と気だるそうに挨拶する生徒達を無視して、ネギの初授業は始まる。

 





「ふ~……やっと帰ってこれたなぁ……、……まだ明日菜君が残ってるのかな?」

 高畑は2-Aの教室へ早足で向かう。
 空は既に暗い。日は完全に沈んでいる。
 本日は彼の受け持つクラスである2-Aで居残り授業が行われている筈だった。
 しかし急な出張で居残り授業をすることが出来なかった彼は、最近学校に着たばかりである一人の親友に、その居残り授業をする事をお願いしたのだ。
 嫌そうにしていた彼だったが、渋々高畑の願いを聞いて、テストのプリントを握りながら教室に向かった彼を見送って出張をこなし、七時過ぎになってやっと麻帆良に帰ってきて2-Aの教室を見上げると、まだ電気がついていた。
 まだ頑張っているのかと歩む速度を速め、高畑は教室へと急ぐ。
 閉まっている扉をがらっと開けると、其処に。

 眠りこけるネギが居た。

 教室を見回しても、教卓で寝ているネギ以外には誰も居ない。

「……?」
 
 訝しげに思いつつ、高畑はネギが眠っている教壇の上に無造作に置かれた紙の束を手に取る。
 それは、生徒達のテスト用紙。
 繰り返し繰り返し、何度も何度もやって、やっと合格出来た生徒達の努力の証。

「……全員が、満点を……。ネギ君……君は……教師に、なるべきかもしれないね……」

 高畑はそう呟く。
 すぅすぅと寝息を立てるネギを、高畑は暫くの間見つめていた。
                     続く

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

ガンナーネギ 第1話 黒板消しは当たると結構痛い
 空は青い。透き通るような水色をしていて、それをところどころ、白い雲が覆い隠している。

「ふあああ~……」

 そんな青空の下、大きくそびえ立つ麻帆良中の校舎の前を、赤髪の少年があくびをしながら歩いていた。
 整った顔立ちはキリッとしておけば、かなりの美形で有る事がうかがえる。茶色掛かった瞳は潤んでいて、とても幻想的だ。
 ……潤んでいる理由は欠伸をしたからなのだが。
 で。
 この男は魔法学校を六回留年した典型的落ちこぼれだ。
 今期やっと卒業出来た理由は、プロローグを読めば分かるので、ぜひ読もう。宣伝である。

「さて、くだらない作者の都合は無視して、学園長の所へ行くか」

 何か不思議なことを言いつつ、ネギは目の前の校舎へと脚を踏み入れ、靴を脱いでスリッパに履き替える。
 外国人だが日本の文化はばっちり予習済みなのだ。

「女子校……だよなぁ……」

 おのぼりさんみたく辺りを見回しながら、ネギは深くため息を吐く。
 何せ女子校だ。居るとしても若い先生位だろうし、先生の中には外国人なんて居ないだろう。つまり、自分は物凄く目立つだろう。
 女どもにきゃーきゃー言われてもうるさいし携帯の写真で顔をとられたりしても嫌だ。
 と、そんな無駄な事を考えていると、何処を間違えたのか職員室の場所が分からない。
 途方に暮れるとはこの事なんだろうなぁ、とネギは思いつつ。

「迷った……ってか、学校……?」

 ふらふらと彷徨いながらも、綺麗に掃除された校内を歩く。
 暫くして、ネギが辿り着いたのはとある教室だった。
 上部に「2-A」と掛かれており、此処が何処かのクラスの教室だという事が分かる。
 つまり生徒が居る、人が居る、職員室の場所が分かる! いやっほぉぉぉぅ!! とネギは心の中で大きくガッツポーズをする。
 数分前までの騒がれるのは嫌だという思考はどこかへと旅立ったので、ネギの頭には恥じとかそういう言葉は思い浮かばない。
 がらがらー! と物凄い勢いで扉を開く様は他から見れば変態かもしれないが、当人は関係ない様子である。
 そんな変態にバツが降り注いだのか如何かは知らないが、ドアを開いた瞬間、頭上から黒板消しが降り注いだ。
 チョークの粉がたっぷりとしみこませてあるやつだ。それが重力に従い、ネギの頭に落下する。
 ぼぅん、という擬音が似合いそうな程の粉がぶちまけられ、まるでネギの視界が真っ白に染まった。

「ごふごふげほげほ!? なん……!?」

 なんじゃこりゃー!? とパニくった頭と真っ白な視界のまま、何かに寄りかかろうとふらふらと前に進むと、張って有ったらしい縄に引っかかり、バケツに足を突っ込んで転び、頭を強打して止めとばかりに背後から撃たれた玩具の矢に足と尻を撃たれた。痛い。

「……あれ? この人誰?」

 おそらくこの罠をしかけたらしい女性の声がネギの耳に飛んでくる。
 それを皮切りに、教室中から驚きの声が放たれる。
 その声を聞きながらネギは立ち上がる、頭の外はチョークで一杯、頭の中は怒りで一杯だ。

「……なんでこんなことをしたのかとか殺してやろうかとか言いたい事は一杯あるけどとりあえず学園長室まで案内してくれっていうか寧ろ案内しろ!!」

 殺意を抑えて優しく聞こえるように努力をしてみたが無駄な努力だったようで、ネギは一息で上記の台詞を叫んだ。驚きの肺活量である。

「明日菜、頼んだ」

 即答だ。
 誰かに言われた瞬間、ツインテールな女の子が立ち上がり、半ばキレ気味に。

「え!? 何で!? この罠仕掛けたのは、鳴滝姉妹じゃない!」
「いいから!」

 叫んだのだが、またもや誰かの台詞と共に背中を押され、前へと歩かされた。
 なんで私が、と明日菜は溜息を吐くが、ネギの威圧感と明らかに放任的なクラスメートの反応に愕然として、後で覚えてろと思いつつ渋々明日菜は案内を始めた。
 しばらく歩くと、やがて立派な扉の前に到着した。
 扉に学園長室という板が貼り付けてある。

「サンキュ~、助かったぜ」

 ネギはお礼を言って学園長室のドアノブへと手をかける。
 挨拶もせずに明日菜は走って教室に戻っていった。
 全く常識の無い奴らだ、と悪態をつきつつ、ネギは学園長室に脚を踏み入れる。

「遅い!」
「悪い」
「なんでそこで銃を抜く!?」

 反射的にー、と面倒そうに答えつつ、ネギはソファにどかりと座る。
 こういう奴が傍若無人っていうんじゃろうな、と学園長は考えつつ、ネギをじろりとにらんだ。

「悪い悪い、道に迷っちまってさ。……んで、ふと警備員なんて雇って何すんの?」

 そう、これが卒業させる条件だ。
『麻帆良学園で警備員をすること』。
 それをネギは承諾し、本日付けで雇われる訳だ。
 ネギが問いかけたのは行き成り警備員を雇った訳、である。

「実はのう……最近、この麻帆良学校内で謎の襲撃事件が多発しておるのじゃ、だから、生徒たちを守ってもらいたい」
「へ~……んで? 警備員て具体的に何やんの?」

 学園長にしてみれば、今の話を聞いてわかって欲しいのだが、ネギには逐一説明せねばならないようだ。

 当の本人は別に興味が無いといった様子で伸びをしている始末。一発殴って頭の回路を治した方がいいかもしれない。

「自分の受け持つクラスの生徒が怪我しないように見張る事、そして、授業の分からない所も教えてやる事じゃ」
「ほーい……って何!?」

 ビックリして耳が大きくなっちゃった! というフレーズが頭に浮かんだが、それは無視して、ネギが大声を上げる。
 バンバンと目の前の机を叩きつつ。

「授業!? 嫌だ! 面倒!」

 力一杯拒否をする。
 魔法学校でも有ったが、そんな学問などネギは捨てた。教える為に指導計画表とか細かく立てないといけないだろうしメンドイ。

「残念じゃが、これは決まったことじゃ。それに、これを拒否すれば魔法学校戻りだぞ」
「ぐっ……脅しやがって……」

 学園長は思わず、脅したのはお前じゃろうと口をすべりそうになったが、自重した。最近の若者はキレやすいのだ。
 ネギは暫く頭を抱えて悩んだ後。

「……分かった……背に腹は変えられないからな……」

 ネギは力なくそう言って、フラフラと立ち上がった。
 ふふん、と満足そうに学園長は息を吐き。

「おお、お主の担当するクラスは2-Aじゃ」
「トゥーアー?」
「……そうじゃ」
「……あのトラップなクラスかよ……」
「……なんのことかさっぱりなのじゃが」
「OKOK、大丈夫大丈夫。早速仕返しのチャンスがめぐってきやがったぜ」

 ガッツポーズをしつつ2-Aの教室に向おうと、ネギは学園長室のドアノブを握る。
 出て行こうとするネギに、学園長は思い立ったように。

「時に、お主は、魔法を全く使えんのか?」

 と聞いてみた。
 おきている襲撃事件に魔法使いを必要とする理由。それはつまり――襲撃者は、魔法を使うという事なのだから。
 もしもネギが魔法をつかえなかったのなら、確実にやられてしまうだろう、
 そんな学園長の心配を他所に、ネギは気楽そうに答える。

「うんにゃ、戦闘系の呪文だけだよ。武装解除とか使えるけど、『魔法の射手』レベルから攻撃魔法は苦手、あ、捕縛性質を持つ奴も無理、箒で空飛ぶとか、『契約執行』とかは出来るんだけどな。だからかわりにこれを使ってるんだよ」

 銃を抜いて学園長に見せながら、ネギは言う。
 そうか、と学園長は短く返した。
 手を振りながら、ネギはドアノブを捻って学園長室から出ていく。






「はい、ネギ君、これがクラス名簿だよ」
「おお! サンキュ、タカミチ!」

 ネギがタカミチ、と呼んだ男はネギの知り合いであり、この学校に勤めている高畑だ。
 ピシッとした服に身を包み、眼鏡を掛けて優しく微笑んでいる。
 渋い雰囲気を醸し出す彼から受け取った出席簿を、ネギはめくっていき、全員の名前を確認する。勉強を教える立場の人間としては生徒の名前は覚えてないといけないのだ。我ながら素晴らしい、とネギは自画自賛しながら2-Aの生徒達の顔と名前をインプットしていく。
 と、ふとネギの指がある生徒の所で止まった。

「……出席番号十番……絡繰茶々丸……」

 ぽつりとネギが零すと同時に、高畑が不思議そうに覗き込む。
 んんんー? と首を捻るネギを見て、高畑は放っておけずに話しかける。

「……彼女がどうかしたのかい?」
「……コイツ、耳に変なの付いてるぞ?」
「……お洒落じゃないか!」
「お洒落で済むか! 何だその語尾の感嘆符! そのおかしな感性を何とかした方がいいぞタカミチ!」
「あっはっは☆ そんなクラスも有るさ、さあ、早くしないとホームルームが終わっちゃうよ?」

 タカミチが壊れたぞあいつ等と過ごすとこうなるのかこれが当然になるのか!? と安い絶望を感じつつ、高畑に押されてネギは教室へと足を踏み入れる。
 と同時に、先程と同じように頭上から黒板消しが落ちてくる。

 (懲りない奴らだな! 二度同じ手が俺に通用するとおもうてか!)

 手を頭上に掲げ、黒板消しを見事にキャッチして華麗に避ける。俺クールなどと思っていたのだが、ぽん、と黒板消しがネギの手の上でバウンドして、頭に再び落下する、しかも今度は持つ方のを下にして。
 ごん、という鈍い音が響く。
 黒板消しは結構重いので、頭上から降ってくると結構痛かったりする。

「…………何の因果か、お前らの副担任をする事になった。ネギ・スプリングフィールドだ、宜しく」

 わなわなと怒りに震えながら、教壇に立って自分の名前をネギは言う。
 シンとなった教室に響くネギの言葉(怒り百パーセントオーバー)。
 何とかその場は高畑に宥められ怒りを収めるが、仏の顔も三度までである。次にやったら校庭を運動させてやるぐわははははとネギは思う。
 とりあえず高畑の授業をおとなしく見ておくことにしたネギは、こそこそと教室の後ろへと移動した。

「じゃあ、教科書の128ページを開いて……」

 高畑の凛とした声が響く。
 おおー、教師やってんだなーとネギが傍観していると。

「ああ……高畑先生……やっぱりカッコイイ……」

 と、なんだか倒錯的な趣味に目覚めているであろう先程ネギを案内してくれた女の子、神楽坂明日菜が気持ち悪い目で高畑を見ながら、うんうんと何かに同意するように頷いている。

「全く……オヤジ趣味なんて、変態ですわ」

 で、それを変態だと言い切る常識のある子(ネギ視点)である委員長こと、雪広あやかが溜息交じりに言い放った。
 どうやらそれが明日菜の琴線を刺激したらしく、彼女は額に怒りを浮かべて。

「あんたのが変態でしょうが、このショ○コン」
「な、なんですって!?」
「こらこら……2人とも……止めなさ……」

 高畑が二人を止めようとしたその時。
 なんか煽ってる人が居ることに、高畑は気がついた。
「よっしゃ!!! やれ!!! 殴れ! ボコれ!!!」
「……ネギ君……」

 別の意味で喧嘩が止まる。
 あら? とネギが思考を止めた所で。

「ちょっと、来てくれるかな?」

 ネギはがっしりと高畑に首根っこを掴まれ。

「あああああぁぁぁぁ……」

 引きづられながら、教室から連れ出された。
 そのまま人気の無いところに連れてこられて、やっと高畑が手を離す。

「あの場合、煽っちゃ駄目だろ?」

 当然である。喧嘩を助長させる教師が居てはいけないのだ。
 ネギはいじけながら、高畑を見やる。
 
「でもさ~……」
「でもさ~じゃ無いよこれからはそんな事しない様に」
「は~い……」

 反省した面持ちを浮かべるネギに、高畑は物分りがいいなぁと関心したところで、乾いた音と共にチャイムが鳴り響く。
 それを聞くなり、ネギは勢いよく立ち上がり。

「よっしゃ! 終わった!」
 
 あっという間にその場を後にして、何処かへいってしまった。
 ぽつんと一人取り残された高畑は、溜息を吐いて。
 
「本当に反省してるのかな?」

 少し頭に来たので、誰にいうでも無くつぶやいた。



 本日の日程が終わり、夕暮れを迎えて麻帆良学園が真っ赤に染まっている。
 その校庭に続く道を、ネギは一人で踏みしめるように歩いていた。

「それにしても、バカ広いな、麻帆良学園」

 見学が終わったネギは、ふぅと溜息をついて階段に座って、空を見上げた。
 紅く染まった空が、何処までも続いている。
 良い景色だな、とネギが思っていると、ぽんぽんと弾むボールがネギの足に当たった。

「ん?」

 視界を下げて、ボールを拾い上げる。
 と、前の方から二人の生徒がネギの方へと走ってきた。
 2-Aの生徒だ。とネギが思った瞬間に。

「ネギさ~ん! 投げてくださーい!」

 元気良く話しかけてきた生徒の名前を思い出そうと頭で反芻しながら。

「おう!……出席番号五番 和泉亜子に、十六番 佐々木まき絵!」

 ボールを投げた。

「おお! ちゃんと覚えてるんだ~」
「偉いな~」
「フ……まあな」
「でも、高畑センセに、引きづられて出て行くところはカッコ悪いかったな~」
「フ……まあな」

 酷いなこいつ等と心の中で思いながら、敢えて同じ台詞で返した。
 きゃあきゃあじゃれあいながら離れていくまき絵と亜子を見送った後、ネギはなんとなく名簿表を取り出して、生徒の欄を見る。
 
「さっき喧嘩してた2人はと……八番 神楽坂明日菜……二九番 雪広あやか……よし、落書きしてやろ」

 明日菜の所に暴力女、あやかの所に、ショタコン、と書く。
 なんだかとてつもなく面白い。
 くくく、とネギが不気味に笑っていると階段をフラフラと下りる、一人の少女が目に入った。黒髪を顔を覆う程に伸ばした少女が、沢山本を持って、フラフラと階段を下りている。確かアレはネギのクラスの宮崎のどか、という生徒だったはずだ。

「危ねぇなぁ……んなに本を持って……」

 ネギが呟いたまさにその瞬間、のどかが足を滑らた。
 まるで時が止まったように、のどかは驚愕の瞳で空を強制的に見上げさせられ、そして、落ちる。
 はねるようにネギは立ち上がる。
 アレは、マズイ。
 あの高さから落ちれば頭を強打し、死んでしまうかも知れない。
 ネギは魔力を足に溜める。
 瞬動術、と呼ばれる、近い距離ならば一瞬で移動できる戦闘技術があるのだが、それを実践しようとしているのだ。
 ダァン! という轟音。
 それと同時にコンクリートに亀裂が走る。
 ネギの姿が一瞬消え、のどかが地面に激突する、まさにその瞬間、ネギの腕が、のどかを受け止めた。

「……ふぅ……」

 のどかを受け止れた事でネギは安堵の溜息を吐く。
 まさに間一髪、後数瞬送れていれば、のどかはアスファルトに激突していただろう。

「危ない危ない、セーフ……って……」

 ネギの目線の先には出席番号十八番。龍宮真名が立っていた。
 冷たい瞳が、ネギを捉えている。
 何かぞくりとする悪寒をネギは感じて。
 何も言わず、ネギはその場から逃げ出した。

「……っれ?」

 のどかが薄っすらと目をあけたときには、ネギは既に風景の彼方に居た。
 ネギさん……? とのどかが呟くが、その声は、誰に聞こえる事もない。
 
 龍宮はくるっと後ろを向いて駅に向かい、去っていった。

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!! 見られた見られた見られた!!!」

 呪詛のように呟きながら、ネギは走り続ける。
 魔法は一般世間の人達に知られてはいけないのだ。もしもバレてしまったらオコジョの刑という過酷な罰が待っていたりする。
 そんな魔法の存在をにおわせる瞬動術という人間離れした技術を見られたのだ。もしもあの龍宮がおしゃべりだったらあっという間にネギが魔法使いだという事が知れ渡り……。

「その先は想像したくもないー! やばいやばぁ!?!?!?」
 
 がっ、とネギの足が何かに引っかかり、そのまま豪快に顔から転倒した。
 べしゃっ、と生卵を落としたような音と共に、ネギが地面を滑る。
 暫く地面を滑った後ネギは木に激突して動きを止めた。

「な、何だボケェ! 俺は何に引っかかったんだ!?」

 がばっと起き上がり辺りを見回すと、丁度ネギが転んだ辺り、なんだかこめかみをぴくぴくさせながら訝しげにネギを見る明日菜が居た。
 ネギは明日菜をぎろりと睨み。

「お前……足掛けやがったな……」
「それは如何でも良いわ、それより、さっき、のどかを助けた時のあれは何よ?」
 
 その言葉を聴いて、ネギの額にぶわっと汗が吹き上がった。
 先程も述べたが、魔法の存在は一般人にはバラしてはいけないことになっている。だから、そういった物の存在を認識させるような行動は慎むように魔法協会からおふれが出ているのだ。
 で、先程仕方なくのどかを助けるために使用した瞬動術を明日菜に目撃されていた訳で。

「あ、あれは……え~……」

 言葉を濁して答えるしかないネギの態度を見て、明日菜は更に目つきを悪くして。

「……教える気は無いようね、いいわ、アンタの事は高畑先生に報告よ!」
「ま、待て!」

 タカミチに報告されたらオコジョ確定じゃねぇかこの野郎ー!! とネギは夕日に向かって叫ぶスポ魂漫画が如く心の中で叫びながら、頭を抱えた。
 人を助けるために行った行為がまさか裏目に出るとは思わなかった。
 仕方あるまい、と彼は覚悟を決め。

「……いいか、聞いて驚くなよ? ……魔法だよ」

 は? と明日菜の表情が疑問に染まる。
 この世に魔法なんて存在する筈が無いのに、それが有ると言われたら、自分が夢を見ていると思うか、もしくは高確率で魔法とかまじめな顔で言った人が妖精が見えちゃってると思う位だろう。
 つまり明日菜に、ネギが頭をおかしい人と認識させれば良い訳だ。いや、良くは無いのだけれど背に腹は変えられないのだ。

「使えるわ!」

 そんなネギの目論見は明日菜のガッツポーズと共に、粉砕された。
 どうやら明日菜という少女は頭の作りが特殊らしい。
 俺の完璧なプランがー!? とネギが驚愕していると、明日菜は彼の手を思い切り握り。
 
「あんた、その魔法とやらで、高畑先生の考えてる事を覗いて、私の事を如何思ってるか私に教えなさい!」
「私利私欲の為に!?」
「バラされたくなかったら言う事を聞きなさい」

 何故自分は先生な筈なのに、なんで命令されなければならないのだろう。
 ネギは切なく思いつつ、思いきり深く溜息を吐いた。
 なんでこんな面倒な事に巻き込まれたのか、リセットして今日をやり直したい位だ。

「さあ! 早く行くわよ!」

 明日菜ががしっとネギの首根っこを掴んで引き摺りながら、その場を後にする。
 本日二度目の屈辱を味わったネギはじたばたと暴れながら、必死で叫ぶ。

「なんで!? なんで俺はこんな風に引き摺られてんの!?」

 ネギの叫びも明日菜には届かない。
 明日菜はなんかものすごい怒りみたいなものを背負って、ネギを引き摺り、そのまま校舎の中に入っていく。
 やがて、2-Aの教室の前に到着するなり、明日菜はネギを床に放る。
 どす、という音と共にネギは床にお尻から着地した。
 痛みが走る。
 ったー! と叫んでも明日菜はじろりとネギをにらんで。

「荷物をとってくるから、待ってなさい」

 と冷たく言い放つだけだ。
 ネギが固まった事を良い事に、彼女はがらりと教室を扉を開ける。
 それと同時、銃声のような乾いた音が、響き渡った。
 その音源は教室の中から。
 まるで桜の花弁のように舞い散る紙ふぶきが明日菜の髪の毛にくっつく。
 
「ようこそ! ネギさん!」

 どうやら先程の銃声のようなものはクラッカーだったようで、中には2-Aのメンバーが勢ぞろいしており、きゃっきゃと騒いでいた。
 壁には色とりどりのチョークで「ようこそ!」とか「ウェルカム!」とか書かれていて、どうやらネギを歓迎しているらしい。

「……あ、そういえば、アンタの歓迎会をやるんだった!」

 それは重要な事だろうがっ! とネギが立ち上がり、何度目かに なる叫びを放つ。
 お気楽娘達な2-Aのメンバーはそんなネギの腕をがしっと掴み、2-Aの教室の中心の椅子に、ネギを座らせた、

「お? おお?」

 きょとんと辺りを見回すだけのネギに、まき絵が無理やり紙コップを持たせ、お茶を注いでいく。
 ネギはこぽこぽと音を立てて、紙コップがお茶で満たされるのを見つめながらも、歓迎されてるみたいで良かったなぁと思っていた。
 きゃいきゃい五月蝿いこのクラスメートも、なれれば愉快になるのだろうか。
 そんなことを考えていると、ぽんぽん、とネギの肩をのどかが叩いた。
 彼が振り向くと、のどかはしどろもどろしながら。

「あの~……ネギさんー……さっきは危ない所を、助けて頂いてありがとうございます~、これ、お礼の図書券です~」

 と、図書券を渡した。
 それは千円相当の図書券で、ネギはそれを受け取り、微笑んでありがとう、とお礼を言う。
 それを目ざとく見つけたまき絵が。

「早速本屋ちゃんがネギさんにアタックだ!!!」
「ち、違います~!!!」

 と高らかに叫んで、会場はざわめきに包まれる。

「本当に騒がしいね」

 ネギの後ろから渋い声が飛んできた。振り向くと、其処には高畑がなんだか嬉しそうに立っている。
 ネギが軽く手を上げて挨拶をすると、高畑はネギの隣に着席した。

 その瞬間、明日菜がネギにタックルをかました。

 ごふっ!? と余りの衝撃に肺の中の酸素を全て吐き出して、ネギは身悶える。
 何せネギを引き摺る力を持った明日菜のタックルだ。衝撃は相当なものだろう。
 痛みで床を転がっている彼を、明日菜はがっしと掴んで少し離れた後。

「高畑先生が私を事をどう思ってるか魔法でさり気なく聞くのよ! 私は廊下で待ってるから!」

 小声で自分がタックルした訳を伝えた。
 そんな自分勝手な理由でタックルをかましたのかとかいろんな疑問が浮かぶが、恋する乙女に常識は通用しないのだ。

「ああ、それね、分かった分かった」

 はいはい、とネギはあきれ気味に溜息を吐きながら高畑の所に歩いていく。
 先程まで座っていた椅子に座りなおすなり、高畑の額に触れて。

「なぁなぁ、タカミチ、神楽坂明日菜の事、どう思う?」
「元気な良い子だよ?」
「ふむ……さんきゅ」

 読心術なんて成功率が低い術が成功できたのを驚きつつ、ネギは明日菜の元に急いで戻る。

「な、なんだって?」

 髪の毛をくるくるといじりながら、何かやけに顔を赤らめて明日菜がネギに問う。
 そんな彼女を訝しげに見ながらネギは。

「成績が悪い、もう少し勉強して欲しい、これは悪い面な、良い面は、優しくて、頑張り屋、だってよ、良かったな」

 と、高畑の心の中を伝えた。
 その言葉を聴いて、明日菜は暫く硬直したあと。

「それ……本当?」
「ああ、本当だ」
「じゃあ、勉強すれば、良い面ばっかりじゃない……」
「そうだな」
「よし! 勉強するぞ~!!!」
「頑張れ~」

 何か変な風に勘違いした明日菜を、ネギは遠めから拍手で見やる。
 もう関わりたくない。というのが正直な心境だ。
 しかし、そんな風に世の中は甘く出来ていない。

「アンタ、勉強教えなさいよ!」

やっぱり面倒ごとというのは飛び火してくるらしく、何か明日菜が変なことを言い出した。
 面倒くさい。
 この一言に尽きるだろう。
 寧ろ答える事すら億劫だ。断ってもどうせつかまって無理やりにいうことを聞かされるに決まっている。
 此処から逃亡しよう、それが良い。
 ネギが思い立った瞬間、まるでそれを先読みするように、明日菜がネギを羽交い絞めにした。

「は、放せ!」
「放さないわよっ!」

 じたばたと暴れるネギをしっかり抑える明日菜の図。
 それは傍から見れば、逃げようとする男を女が無理やり抱きついて逃がさないようにしているようにも見えなくも無い。というかそう見える。

「あああああ!!!!!」

 それをやっぱり目ざとくまき絵が見つけて、大声を上げる。
 それに驚いたのは他でもない本人たちだ。びびくぅ! と体を跳ねさせて、ネギは何が起こったのか辺りを見回し、明日菜は何が起こったのか理解できないようにきょとんとしていた。

「明日菜さん! 何してるんですの!? ネギさんに後ろから抱きつくなんて! 破廉恥な!」

 えっ!? と明日菜、ネギの両人はやっと叫ばれた理由に気付き、慌てて離れる。
 だがそれは後の祭り、クラスメートたちに囲まれて、質問攻めにあうのは目に見えていた。




 世界樹の根元に座っているのは龍宮だ。
 褐色の肌に茶色の瞳、ぐぐっと張った福与かな胸は、彼女を中学生というのを真っ向から否定しているように美しい。
 彼女は銃を手入れしながら、学校の校舎を睨む。
 瞳に写るのは敵意。獲物を狩らんとする威圧はまさに獅子そのものだ。
 銃の部品である金属がぶつかり合う音が、凶暴に響き渡る。
 獲物を前に檻に入れられているライオンの唸りのようなその音は、もしも聞くものが居たとしたら、恐怖に慄いたことだろう。
 獅子が狙う獲物はネギ・スプリングフィールド。
 ふっと笑みに割れたその表情は、まるで玩具を見つけた猫のように無邪気で、そのくせ、獲物を見つけたライオンのようでもあった。

ガンナーネギ プロローグ
 乾いた銃声が室内に響き渡る。
 空を裂くように放たれた二発の『魔法の弾丸』は、十数メートル先の人形の頭に当たり、ものすごい音を立てて転ばした。
 銃を撃った少年は、その整った容姿をクールに決めて、クルクルと銃を指で回し、腰のホルダーに銃を仕舞う。

「流石じゃな。ネギ君」

 その少年の後ろ、ひょうたんのような頭の形をした見た目妖怪にしか見えないおかしな老人が、拍手をしながら先程発砲した少年――ネギ・スプリングフィールドに話しかけた。
 あん? とネギは後ろに振り返る。
 誰だろう、この爺は。などとネギが失礼な事を思っていると、その老人はこほん、と咳払いをして。

「冷たいの、挨拶くらいしてもよかろう。魔法学校を卒業させてやろうしておるのに」

 この瓢箪のような頭の形をした男は麻帆良学園と呼ばれる学校の集まりの、学園長をしている実はとっても偉い男なのだ。
 しかしネギはそんな威厳たっぷりな老人の胸倉を、がしっと掴む。

「ま、マジか!?」
「マジじゃ」

 ネギの切羽詰まった反応に疑問を感じつつも、学園長は即答する。
 そんな老人の胸倉を掴んだまま、ネギは体を震わせ本当に心の底から幸福そうなうめき声を上げて。

「よっしゃ~! 苦、節、十、三、年!! 普通の課程七年なのに六回も留年してて今回も留年かと思ってたっ! さんきゅう糞爺!」

 留年。
 その台詞を聞いた瞬間、学園長はんん? と頭をかしげた。
 勉強の為にネギは此処に残っていたのではないのだろうか。

「お、お主、何歳じゃ?」
「俺? 俺は十七だぜ」

 びしっ、とネギは胸倉を掴んでいた手を離して親指を立てる。
 学園長は戦慄し、わなわなと震える。

 学園長の心境はこうだ。嘘だと言って欲しい。いや、嘘であってくれ。

「お、お主の名前は……?」

 学園長はよろめきつつ、出来れば人違いだといいなーと淡い希望を込めて、質問してみる。
 すると目の前の少年は訝しげな表情を浮かべて。

「分かってんだろ? 俺はネギ・スプリングフィールドだぜ?」

 人違いじゃなかったー!! と学園長は頭を抱えて蹲った。
 父親のように前途有望な少年だと思っていたら、そんな事は無かったらしい。現実とは非常にシビアである。

「さっきの卒業の話は無しで……」

 話を無かったことにして、シュタっと手を上げて去る事にしよう。六回留年というのは軽々しく出来るものではない。純粋に魔法学で及第点を取れていないという事だ。ことのつまり、魔法が使えないという事なのだろう。
 学園長が呼びにきたのは『魔法の才能が溢れていて、立派な魔法使いになる可能性が高い少年』なのだから。
 学園長が踵を返した所で。
 
 やけに冷たい物が後頭部に当たった。

 切羽詰った威圧感を漂わせながら、ネギが銃口を宛がっているのだ。

「まさか俺を糠喜びさせようなんて思って無いだろうなぁ?」
「そんな事は無いぞ」
「そうだよな、やっぱりそんな訳無いよな」

 けたけたと子供じみた笑みを浮かべるが、要するに脅迫である。
 ぶっちゃけ学園長は自分の命を優先しただけだ。

「悪魔め……」

 ポツリと学園長が言う。間違ってはいない。
 
「あん? 何か言ったか?」
「何も言うとらん」
「そうかそうか、それは良かった~」

 ネギは高笑い、学園長の肩をポンポン叩きながら言う。

「ただし、条件が有る」

 学園長は仕方ないといった様子で、溜息交じりに交換条件を提示する。
 ネギは面倒そうな表情を浮かべ、銃口を学園長に向けながら。

「条件? 卒業できんなら何でも良いぞ?」
「わしの学校で、警備員をやって欲しいじゃ」

 はぁ? と首をかしげるネギに、学園長は溜息交じりに麻帆良学園への地図を手渡した。

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学



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